■ 高耶さんへの想い |
上杉景虎に抱いた直江信綱の400年分の「執愛」とは一体どんなものなのでしょうか?ここでちょっと考えて見たいと思います。 |
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第1部 1〜12巻 |
「これまで十回換生したあなたを、私は一度たりとも見間違えた事などありませんでしたよ。どんなに姿を変えても」 (1巻p99)
(自分には、帰るべき場所がある。どこに行こうとも、彼の傍らが、自分のいるべきたったひとつの―場所……。) (5巻p79)
(自分は景虎のために生きてきた。景虎のためだけに存在している。) (5巻p71〜72) |
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ここから新たな直高の関係がスタート。しかし、二人を待っていたのは深い苦しみ…。つらいです、すれ違いが。 |
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(胸を焦がす独占欲…。(省略)誰を愛しても、彼はかならず戻ってくるしかなかった。彼がどんなに他の誰かを愛しても、相手はかならずいつか死んでしまう。(省略)いつでも最後にあの人のそばにいるのは、この自分なのだ。) (5巻p79)
(彼の心―彼の愛を、この魂に奪いとってみたいだけだった。(省略)狂ったこの腕が欲していたのは……、求めていたのは景虎だった。生命すら借り物の自分にとって、彼こそがおのが命そのものだった。) (5巻p81)
(そうして彼のかたわらを自分の生涯の居場所だと信じた。それが誇りだった。) (断章p32)
(弱さを見せて、誘う。牙をかくして、待ちぶせている。それが彼の本性だ。騙されてはならない。この人がオレに護られるだけの人間なら―。こんなに惹かれることはなったはずなのだ。) (断章p67)
(許せないほど、愛おしい。愛しすぎて、息ができない。憎くて憎くて、憎しみを越えて、狂おしいほど愛しい……。) (断章p129)
(惹かれたのは、当然だった。彼は、自分が自分に求める理想的な姿を目の前で体現する人間だった。彼は完全だった。彼を見ることは、自虐行為にちかかった。でも彼から目を離すことは、とてもできなかった。それほど彼は美しすぎた。) (9巻p142)
(真の憎しみで彼を思い、真の愛で彼を思う。どちらも本当で、別個のものなのだ。この相反するもっとも激しいふたつの感情が同じだけの焦げつくような熱さで、彼一人に執着する。同じだけの強さでこの胸を裂く。)
(世界中の誰よりも、あなたのことを強く深く思っているのは、あなたに誰よりも負けたこの自分だ、と。) (9巻p143〜144) |
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二月堂へ行った直江。思考をぐるぐる回転させています。この第一部の直江の高耶さんへの想いは、「愛している・憎悪している」というふたつの感情が入り交ざっています。この相反した感情が直江の苦しみである、と思いました。 |
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第2部 13〜20巻 |
はい、暗黒(?)の第2部です。直江が大変なことになったせいで、高耶さんはもっとたいへんな目にあっています。 |
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「尊敬できる人はいた。でもここまで惹かれる者はどこにもいなかった」 (14巻p64)
「私にはあなたが、必要だから……」
「敗北しても押しつぶされても、あなたが私の、たったひとつの生命だから」 (14巻p95) |
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開崎な直江が苦しむ高耶さんに今の想いを話すところ。いいシーンです。重要です。でもそう言いながらも、しっかりウニャムニャなことを途中までなさっていますがね…。 |
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(脆くなって、鎧をはぎ取られても、なお最後でみせる、この小さな強さを。―開崎は懐かしいと思った。一見開き直りともとれる、このひとかけらの勇気が、美しくて、ただいとおしいと思う。景虎のこんな姿にこそ、自分は深く惹かれたのだった、ということを、彼は思いだした。) (15巻p171)
「心が、いつもあの人に還って行く」 (15巻p215)
(喪失が怖くて降り返れなかった「弱さ」も、永遠に崇拝されていたい「狡さ」も、全部。高耶をうでの中に抱きしめながら、この人間のもつ救われないほどの悪の部分までも、烈しいくらいの力で、全部自分のものにしたいと願った。) (16巻p138)
「あなたが愛しくて死にそうだったから、門番を殺して帰ってきた」 (20巻p109)
(あなたの肉になって、ようやく私は救われる。) (20巻p155)
「あなたのなかに天国がある」
(美しいものはいつも彼の中だけにあった。信仰のような愛だった。自分は神も天も信じない。人間の救いなんか信じない。だけど彼の中にだけ天国への道を見ることができる。)
(あなたの精神に宿りたい……) (20巻p160〜161)
「私は、あなたの一部になれれば、それでよかったんです」 (愛しい人間の、精神の一部に。) (20巻p154) |
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景虎に対する怯えと影響力の大きさ、自分の高耶さんに対する愛情がどんなものか確認した第2部。そして、直江が400年夢見ていたことが現実になったのも束の間…。幸せは長く続かないものなのです。 |
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第3部 21〜28巻 |
「他は知らない。けれどあの人のことは、毎日考えている。日毎に強く想うようになる。こんなに愛しているんだ。……他の人は、そうじゃ……ないんですか」 (アウディノスp17) |
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それは直江だけ。他の一般人と直江は一緒に考えてはいけません。違います。確実に違います。 |
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「直江信綱は上杉景虎に殉じる人間です。私はあの人に殉じて生きる存在です。千年先も。永劫―」 (砂漠殉教p75)
「……橘義明は出ていきました。ここにいるのは、ただの直江信綱です」 (26巻p37) |
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このあたりの台詞はグッときました。この「ただの直江信綱」はいいですね。この男ってば、いつも詰めが甘いから。何度も詰めの甘さから景虎様に逃げられてますから…。
しかし、「直江信綱は上杉景虎に殉じる人間です」はかなり名言ではないかと思っています。直江の高耶さんへの想いは、この言葉に尽きるんじゃないかなと。一番端的に表われた台詞だと思いました。 |
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「私はあなたになりたいから、ひとつになりたかったのだと思っていました。だけど本当は、ひとつになれないから、あなたになろうとしていたのかもしれません」 (26巻p27)
「あなたの苦悩を自分の苦悩にしたい人間がここにいるんだ。そういうちっぽけな男がどんなことを思い、願うか。あなたを独占したいんだ。誰にも見せたくないんだ。自分だけのものにしたいんだ。永遠に足掻くだけの男の目の前に、天国への道が開けていたんだ。―あなたが受け入れてくれたんです。救いを受けたことを唾棄するのですか。ならば自分が自分であるために、自力克服できない人間はどうすればいいんです。獲得じゃない。神なんか知らない!神にも救えないこの男を、救える人は世界にたったひとりしかいないだけだ!」 (26巻p27)
自分は後ろにいる。(あなたの後ろで、あなたを襲う敵を倒して行くから) 必ずそばにいるから。 (26巻p189〜190)
「たとえどこまで行こうとも、あなたには私がついています。たとえ人を名のれなくなる日が来ようとも。この世の涯まで行こうとも」 (22巻p206) |
苦悩しながらも覚悟を決めたように見える直江。400年苦悩した結果出した、ある意味悟りの境地のようなコトバのような気もしました。高耶さんの側にいるのが直江の役目であり、幸福にも繋がるのではないでしょうか。しかしまだまだ波乱と困難と苦悩が待ちうけていました…。 |
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ファイナル 29〜40巻 |
存在そのものが男性器とまでいわれた直江が、なんと毒のせいで使い物にならないという非常事態が発生。大変!高耶さんを満足させてあげられない(すいません…)。
しかし、毘沙門天の霊力入りピピーを体に注ぎこみまくり、血中の毒素を1年前より2割下げるというものすごいことに直江のま●は使用されたわけで…。おまけに毘沙門天の霊力には微量の解毒成分があるそうです。すごい直江…。この捨て身の高耶さんを救おう作戦!
そして救おう作戦第2弾として温泉での解毒治療。でもしっかりコトはなさっています。自力で立てないくらいまでするのはどうなんでしょう? |
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「俺は違う。挑む対象でしかないおまえとは違う。力がなくなって誰からも見向きされなくなった仰木高耶も、俺の生きる理由だ」 (33巻p60)
「俺はおまえと違って、挑戦者なんて言葉で満足できるほど淡白にはなれない。そんな名前だけで、彼の全存在に立ち向かっていけるなど大間違いだ。おまえは甘い。彼の恐ろしさを本当にはまだ知らないだけだ」 (33巻p60) |
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兵頭に高耶さんと戦わない落伍者と罵られています。しかしそんな直江は兵頭に思いきり言い返しています。兵頭…直江に甘いとか言われてますよ。一番詰めが甘い男に。でもここでの勝利者は直江。ここで2歩くらいリード!しかし、愛する高耶さんを助けるために、信長に膝を折る直江。でも、やはり直江は健在でした…。 |
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(その手をはなせ、ふれるな、そのひとは俺のものだ、俺のものだ!なんでそんないかがわしい姿を晒してるんです、嫌悪感の裏で倒錯感が揺れる。駄目だそんな目でヒトを見ては駄目だ、そんなカオを晒しては!) (35巻p60) |
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ゴロニャン高耶さんに直江壊れました(いつも?)。そして発狂したように笑い転げてます。その後が更にすごい。部屋で何をしていたのかを部下に尋ねられ、無表情で言い放ちます。 |
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「……マスターベーションしていたんだ」 (35巻p63) |
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このシーンは直江の真骨頂が堪能できます。高耶さんが必死に戦っている時にそんなことしてる場合じゃない!そして、更なる試練が直江に振りかかります。信長に命じられてゴロニャン高耶さんを犯す直江。しかしそこは直江。 |
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(羞恥心と戦うどころか、自ら見せつけにいったようなものだ。愛情が言わせる切実な言葉もなく、このひとは俺のものだ、俺のものだ、とただひたすら所有宣言のために腰を振る自分の浅ましさに打ちのめされていた。) (35巻p123) |
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直江…羞恥心なんてそんな謙虚な心持ち合わせてないでしょう?所有宣言ってしょっちゅうしていませんでしたか?そんな今更…。 |
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(―愛している……!―細胞のひとつひとつまで、あなたは俺のもの。―ほしい……足りない……!―愛しているんだ。) (36巻p238) |
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直江大爆発!そのおかげで直江の意識が信長の方へ勝手に流れていきます。恐るべし、直江!信長の脳内まで侵そうとは! |
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「……彼とは、いまも手が繋がっている」 「もう離れることはない……」
(共に歩いている。共に生きている。) 「この手は二度と……離れない」 (39巻p170〜171) |
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直江が怖いくらい悟ってしまっています。直江はいつもこの想いを胸に抱いて高耶さんの側にいるんですね。高耶さんの後ろを護り、同時に一緒に歩む者。それが直江信綱なんだと思いました。 |
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■ 感想 |
映えある第1回に直江信綱…いいのだろうか?と疑問をもってしまいます。が、とりあえず近年稀に見るインパクトのある男であることはまず間違いないでしょう。そして、肉体はサド・精神はマゾの直江と、肉体はマゾ・精神はサドの高耶さんは、実はかなりピッタリの主従カップルなのではないでしょうか。
初めてUPしてから数年経過して、手直ししてみました。相変わらずかなり長いですが、読んでいただきありがとうございました。 2007年12月24日 再UP |